ShizuiNetのはじまり〜なぜSymbolを選んだのか〜

正直、この10年は厳しい時代でした。

実は30年ほど前にやっかいな心の病気にかかり、無理をしながら研究を続けてきましたが、50歳を過ぎた頃にはもうボロボロでした。このまま窓際でさらに10年過ごすかと半ばあきらめていた時に、それはやってきました。

人工知能用のGPUで仮想通貨を掘ろう。

人工知能とブロックチェーン。無理が効かず実験量も減っていた僕にとって、新しい技術が救いの手を差し伸べてくれました。

「これからは深層学習型人工知能を研究テーマに取り入れて、ブロックチェーンで研究費を獲得できるんじゃないだろうか。JSTのさきがけで培ったLinuxの知識を使えば可能だし、細胞医療と組み合わせれば僕にしかできない研究テーマになる。最近流行っている事業化の仕組みで資金を集めて機材を揃え、自分でも出資して研究所を立ち上げて事業としてやったら面白いじゃないか。」

しずい細胞研究所を作ってみよう!

しかし、ブロックチェーンでお金を稼ぐってのは、そんなに甘くなかったです。小遣いで買ったMONAがコインチェック事件後の仮想通貨大暴落と、追い打ちをかけたZaifハッキングで半分以下の価値になり、取引所から現金を引き出すことすらままならなくなりました。せっかく買ったGPUによるマイニングも、研究費を稼ぎ出すどころか電気代で赤字になる始末。さらにMONAは史上初の51%攻撃を受け、ASICによるマイニングパワーによる寡占から、Proof of Workの信頼性は低下し、ビットコインの信用がぐらついてきました。

仮想通貨で儲けようという発想自体をやめよう

そう思っていた時、偶然NEM Technical Referenceを手に取ります。nemlogでNEM技術勉強会として翻訳&解説を連載してみたところ評判が良くて、投げNEMという形で資金が集まってきました。そう、NEMコミュニティにはマイニングなどしなくても資金を集めることができる、一種の寄付のしくみが根付いていたのです。さらに、白書を一字一句読み進めるうちに、PoIというのはGPUなしでもいけそうだ。NEMの送金額に応じて報酬も得られるから、入出金(トランザクション)を大量に引き起こすような仕組みを作れば、このブロックチェーンは大きく発展すると確信しました。

よし!ShizuiNet作ろう!

トランザクションを大量に発生させるには、細胞の移動そのものを、その都度ブロックチェーンに記録するようにすれば良い。100箇所の拠点がそれぞれ一日100のトランザクションを発生させれば、それだけで毎日10000トランザクションです。ただ問題がありました。NEM Technical Referenceをさらに読み込んでいき、NIS1を立ち上げて自分でもハーベストを始めてみて、PoIのトランザクション手数料報酬が驚くほど安いことが分かってきました。しかもステーキングの寄与がほとんどで、大量のXEMを買って、スーパーノードにでもならないと研究資金なんて到底無理。つまり「儲からない」ブロックチェーンだったのです。

ここまでやったんだから、毒をくらわば皿まで。

でも、読み込んだNEM Technical Referenceには、暗号理論にもとづいた慎重さと、技術に対するこだわりと、既存のブロックチェーンが抱える多くの問題点への対処が詰め込まれていました。それで、僕のマイノリティー大好き気質が目を覚まします。まず、PoIはほとんどワークしていないように思えました。それを確認するために、ブロックチェーンのデータでステーク(S) vs. インポータンス(I)のグラフを描いてみると、トランザクションの寄与はほとんどなく、ほぼPoS状態。ただ、10000XEM保持のアカウントが妙に効率よくインポータンスを稼いでいる。持っているXEMを10000単位ごとに分散してハーベストすると最も効率よく稼げるのです。

PoSの変法だけど、これはコロンブスの卵だわ。

NEMを支えるノードで走るNIS1のアウトリンクマトリックスの計算は負荷の大きさに対して、計算結果がほとんど意味をなしていないのは明白でした。PoIは、ほぼ定数となったアウトリンクマトリックス計算結果が、10000XEMの最小ハーベストアカウントが若干有利になる仕組みとして働いているだけだというのが分かったのです。グラフ的には、S vs. I直線が原点を通らないだけ。でもたったこれだけで、少額のホルダーでもハーベスト収入がそこそこ生じ、それによってPoIが成立している。本来半年に一回くらいしかハーベストできない少額ホルダーが、月に1回くらいはハーベストできることに、感覚的にものすごいお得感があるのです。

カタパルトでPoIは消えてPoS+が採用される。

NEMの次世代ブロックチェーンのプロトタイプ「カタパルト(現在のSymbol)」では、アウトリンクマトリックスをばっさり切り捨てて、支払った手数料に応じてインポータンスが上がる仕組みPoS+が採用されました。ビットコインもイーサリアムもリップルも作り出せなかった少額ステークホルダーに刺激を与える方法です。NIS1ではほとんど定数でしかなかったy切片に、カタパルトでは手数料という理由付けとインセンティブ(定額のインフレ報酬)が加算されます。ノード運用コストが低く、報酬が平等で安定していることは大きなアドバンテージになります。

これはNEMに賭けてみてもいいんじゃないか?

Symbolテストネットのデバッグは、コミュニティによって進められました。僕は科学的視点に立ったトランザクションデータの解析を担当し、超高負荷時にも安定してトランザクションが処理できることを論文にまとめました。そして、Symbolメインネットが立ち上がると同時にエアドロップが貰えて、さらに価格が高騰。これで起業資金を集めることができました。

面白いことをやっていれば、なんとかなる

僕が人生に絶望しかかっていたころにNEMに出会い、この技術に賭けている理由は、多分楽しいからです。それまで人生が楽しいと感じたことはあまりありませんでした。NEM/Symbolの仕組みに惚れて楽しんでいたら、いつの間にか起業に必要なお金が集まってしまったのです。しかもSymbolにはまだまだ未開拓の技術的可能性がたくさん残っており、コミュニティはみな親切で、環境が温暖で資源は豊富な南の島のような雰囲気が漂ってます。そんな新天地であと10年頑張ってみようと思えたのです。暗号資産価値としては低迷を続けていますが、楽しくやっていればいいんだという雰囲気が好きです。病気はまだ癒えていませんから、無理せずじっくり取り組むにはむしろこのくらいがちょうど良いのかもしれません。